中年期からのアイデンティティ心理学 ~成人期の危機と発達~

この記事は、キャリア自律セミナー2024のイベントレポートで、中年期のアイデンティティ心理学、成人期の危機、そして発達に焦点を当てています。

経験の語りを聴く 人生の危機の心理学 世代継承性シリーズ 4 [ 岡本 祐子 ]

記事では、中年期のアイデンティティの危機について議論されています。中年期には、体力や気力の衰え、残された時間の展望の狭まり、将来達成できる仕事や昇進の限界など、内面の悩みや問題に直面しやすくなると述べています。人々は「自分の人生はこれで良かったのか?」と自問自答し、人生を再評価せざるを得なくなるのです。

「アイデンティティ」:
精神分析家エリクソンが提唱した概念で、主体的な自分のあり方(独自性あるいは個としての自立性)と、所属集団の中での自分の居場所感のことをいう。
「キャリア」:
仕事・職務を中心とした生涯にわたる経験。
「危機」:
破局的な状態を連想してしまう言葉ではあるが、本来は発達的な分かれ目や岐路のことを言い、人生という時間軸から捉えると「人生の曲がり角」を意味する。

中年期の危機を乗り越える方法についても解説

自己と向き合う力が重要であり、体力や体調、気力の変化に気づき、自分の人生を再検証し、人生の後半をどのように生きるかを探求し、それまでの生き方とは異なる満足のいく生き方に修正したり、生き方を変えたりすることが重要だと示唆されています。

このレポートでは、広島大学名誉教授である岡本祐子氏が、中年期以降のアイデンティティ発達のメカニズムと、危機を乗り越えて自己実現に至る道筋を解説しています。

中年期のアイデンティティ危機

岡本氏は、中年期は、身体的な衰え、キャリアの停滞、家族や社会における役割の変化など、様々な要因が重なり、アイデンティティが揺らぎやすい時期であると指摘します。具体的には、以下のような点が挙げられます。

  • 身体的な衰え: 体力や気力の低下、外見の変化などを実感し、老いを感じ始めることで、自己イメージが揺らぐ。
  • キャリアの停滞: 昇進の限界が見えたり、仕事にやりがいを感じられなくなったりすることで、自分のキャリアに疑問を持つ。
  • 役割の変化: 子供の独立、親の介護、退職など、家族や社会における役割が変化することで、自分の存在意義を見失う。

これらの要因が複合的に作用することで、
「自分は何者なのか」「これからどう生きていくべきなのか」
といった問いが生まれ、アイデンティティの危機に陥るのです。

流動的なアイデンティティ

岡本氏は、現代社会では、終身雇用制度の崩壊、経済の停滞、高齢化の進展などにより、人々の生き方が多様化し、従来の価値観や生き方が通用しなくなっていると指摘します。そのため、中年期だけでなく、若い世代や高齢者も、常に自分のアイデンティティを問い続け、変化に対応していく必要性が高まっていると言います。

このような状況下では、一つのアイデンティティに固執するのではなく、状況に応じて柔軟に変化できる「流動的なアイデンティティ」を持つことが重要になります。

アイデンティティの再構築

中年期の危機は、単に苦しいだけの経験ではなく、自己を見つめ直し、新たな自分を発見するチャンスでもあります。岡本氏は、危機を乗り越えるためには、以下のプロセスが重要であると述べています。

  1. 自己受容: 自分の弱さや限界を含めて、ありのままの自分を受け入れる。
  2. 自己探索: 過去の経験を振り返り、自分の価値観や強み、弱みを再確認する。
  3. 新たな目標設定: これからの人生で何を達成したいのか、具体的な目標を設定する。
  4. 行動: 目標達成に向けて、積極的に行動する。

これらのプロセスを経て、人はより成熟したアイデンティティを再構築し、後半生をより充実したものにすることができるのです。

危機を乗り越えていくには、身体的な衰えや体調、バイタリティの変化に気づき、自分の半生を問い直して、人生の後半期をどう生きていこうかと模索し、軌道修正あるいはこれまでの自分とは異なる、納得できる自分の生きざまに軌道転換していくプロセスが大事だ。このようなプロセスをたどることで、自分に対する肯定感が増し、アイデンティティが再確立されていく。

自己を観る視点:「個としての自分」・「関係の中での自分」

岡本氏は、自己と向き合う際には、「一人称」「二人称」「三人称」という3つの視点を持つことが重要であると述べています。

1)一人称の心理学:
・自分のアイデンティティの問い直し。
・「個としての生き方は納得できるものか。
・自分の納得できる側面/納得できない側面。

2)二人称の心理学:「関係性」に基づくアイデンティティ
・自分と他者(特に自分にとってかけがえのない人)との関係はOKか。その人たちとどのような関わりをしてきたのか。

3)三人称の心理学:
・ライフサイクルにおける中年期の意味を深く知る。

  • 一人称: 「私がどう思うか」「私がどう感じるか」という、自分の内面的な視点。
  • 二人称: 「相手が私をどう思っているか」「相手との関係の中で私はどうあるべきか」という、他者との関係における視点。
  • 三人称: 「社会全体から見て私はどういう存在か」「客観的に見て私はどういう状況にあるか」という、客観的な視点。

これらの視点をバランス良く持つことで、多角的に自己を理解し、より客観的な自己評価ができるようになります。

中年のアイデンティティの4つのタイプ

岡本氏は、中年のアイデンティティには、「活路獲得型」「模索・探求型」「現状維持型」「漂流型」の4つのタイプがあると述べています。

  • 活路獲得型: 積極的に自己変革を行い、新たな目標に向かって突き進むタイプ。
  • 模索・探求型: 様々な可能性を模索し、自分に合った生き方を探求するタイプ。
  • 現状維持型: 現状に満足し、安定した生活を維持しようとするタイプ。
  • 漂流型: 自分の生き方に迷い、方向性を見失っているタイプ。

岡本氏は、「活路獲得型」が最も望ましいとしていますが、どのタイプが良いかは、個人の価値観や状況によって異なります。重要なのは、自分がどのタイプであるかを認識し、自分らしい生き方を選択することです。

このレポートは、中年期のアイデンティティの危機について、心理学的な視点から深く掘り下げ、危機を乗り越えて自己実現に至るための具体的な方法論を示唆しています。

現実を受け入れ、やりたかったけれどできなかったことに折り合いをつける力は、中年期には特に大事な心の資質」

タイトルとURLをコピーしました